第22章 〜ただ一人の人〜
新居について、間もなくして引越し業者が
トランクルームからの大きな荷物を
指定場所へと配置していった。
ベッド、机、本棚、家電類・・・
あっと言う間に、7畳の1Kルームは
一人暮らしの部屋らしく完成されていった。
引越し業者が帰ったあとに
食器や衣類など細かいものを片付けて
いくと、引越しは完了した。
大学までは、二駅のところにある
単身者・学生向けの小さなマンション。
最寄り駅は、桜奈のバイト先や
高校と同じ駅の南口。
高校とは反対側の方になる。
大学まで徒歩圏内にも、空き部屋はあったが
立地や駅迄の距離、買い物のしやすさ
お気に入りのカレー店等々、色々と考え
そのマンションを選んだ・・・と言う上辺とは
別に、桜奈との物理的距離を
縮めたい無意識が働いていなかったかと
言えば嘘になる。
引越しを決めた時の心情は
一刻も早く、物理的な距離を取って
自分を制御することが目的だった。
でも、そう思いながら、言うほどの距離は
とれてはおらず、あわよくば偶然に
出会ってしまうかも知れない場所を
選んでいた。
(はぁー、冷静に考えると
俺って、かなり痛いやつだわ)
桜奈に意外と近いですね!と
車の中で言われたのをきっかけに
荷物を片付けながら部屋を決めるまでの
色々を振り返り、自分に呆れていたのだ。
『家康君、あと片付けるものある?』
と鷹介に聞かれ
『いや、もうほとんど片付いたので
後は、一人で大丈夫です。
ありがとうございました。』と礼を言うと
『じゃ、小腹も空いてきたし
引越し蕎麦でも食べにいこうか』
と言う鷹介に、待ってましたとばかりに
『はーい、賛成!お腹空いたー』と
張り切って手を挙げる桜奈。