第22章 〜ただ一人の人〜
『おーい、お茶入ったよー!』
荷物を運び終え、桜奈を起こして
連れて行くと言った家康だったが
なかなか戻ってこないため、呼びにきた栞。
(全く、何をしてるかと思えば
なんて顔しながら
寝顔見つめちゃってんのよ・・・
はっー、信長様に会いたくなったじゃない!)
家康が桜奈を起こすちょっと前。
二人を呼びにきた栞が目にしたのは
これ以上ないほど、愛おしい表情で
桜奈の寝顔を見つめる家康の
姿だった。
その表情も姿も栞の目には
戦国時代の家康そのものに見えた。
邪魔してはいけない気がして
声をかけることが躊躇われ
少し、様子をみていたのだった。
声をかけられ、栞に気付いた桜奈は
『あっ、お姉ちゃん。
あれ?パパとママは?』
家に着いていたことに
やっと気づきキョロキョロしたが
『とっくに家の中よ。遅いから呼びにきた。』
そう言うと、すぐに家へと戻っていった。
『だってさ。家に入ろう』
『ですね。』とニコッとする桜奈。
黄色いクマのぬいぐるみをしっかりと
抱いたままの桜奈に気づき
『それ、手で持って帰ってきたの?なんで?
バッグ入れちゃえばよかったのに・・・』
『そうなんですけどね。
なんとなく、手放せなくて
手で持ってきちゃいました。』
(たぶん、ずっと手放せないだろうな・・)
寂しそうな、でも愛おしそうな
複雑な表情をしながら
クマのぬいぐるみを見つめる桜奈。
『ふーん』と言いながら
(そんなに、気に入ったのかな?
それなら、あの人と張り合った甲斐が
あったわ・・・)そう思う家康だった。