第22章 〜ただ一人の人〜
どんなに楽しい時を過ごしても
桜奈の頭の片隅には
『引越し』のその日のことは
常にあった。
(明後日か・・・あっという間だな・・)
俯いたまま、眠ったふりをし
自分の落ち込みを悟られまいとする桜奈。
目を閉じて、車の揺れに身を任せて
いるうちに本当に眠ってしまっていた。
遠くで、誰かの話し声やバタンとドアの
閉まる音が聞こえていた気がした。
それから、名前を呼ばれ肩を揺すられて
パッと目を開けると
『着いたよ、起きて』と家康の顔が
間近に迫っていて、ギョッとする桜奈は
一気に///かぁっー///と真っ赤になり
固まった。
クスッとしながら
『あっ、ヨダレ』と桜奈の口元を
指差し、意地悪そうに笑う家康。
ドキッとし、えっ?えっ?と
大慌てで口元を拭う桜奈を見て
堪えきれないと言う顔で
クックックと笑う家康をみて
(しまった!またひっかかった!)
と思う桜奈。
手の甲で口元を押さえたまま
じとーっと家康を睨み
『もう、その意地悪なんとかなりません?
性格悪いですよ。』とプンスカしたが
『ごめんなー、性格悪くって。
でも、そんな俺でも良かったんでしょ?』
と、告白したことを逆手にとって
更に揶揄う家康に
『意地悪な家康さんは、好きじゃない
ですもん』とプイッと横を向く桜奈。
『ふーん、別にいいけど。
俺は、どんな桜奈でも好きだから』
サラッと、甘い言葉を口にする家康に
また、ボッと顔に火がついた。
(ほんと、揶揄い甲斐があるねぇ。
可愛い///)とニヤッとしながら
桜奈の百面相に見入っていた。