第22章 〜ただ一人の人〜
『そろそろ、帰るわよー』と
千里が呼びにきた。
『はーい。じゃ、秀吉君、おじいちゃん
おばちゃんとここを宜しくね』
『おう!任せておいて。栞姉ちゃんも
元気でな』
栞が行方不明になってからは
滅多に帰国がかなわない海外に
嫁いだという設定で、親族内外には
通していた。
ただ、本当に近しい親族の中には
事情も真実も知っている者もいて
秀吉もその一人だった。
『うん。ありがとう。たぶん、会えるのは
今回が最後になるとは思うけど
まだ帰るまでには、時間はあるから
顔出しにくるわ。』
『了解!約束な。待ってるよ』
そう言って微笑む秀吉。
祖父母や秀吉達に見送られて
帰路についたが、その道中
鷹介が家康に尋ねた。
『家康君、お疲れ様。
引越しの準備もあるのに悪かったねぇ』
『いえ、こちらこそ、お忙しい中に
お邪魔してしまって・・・
でも、楽しかったです。
誘って頂いて嬉しかったです』
『そっか、ならよかったけど。
ところで引越しは、明後日でしょ?
手伝うから、遠慮しないで言ってね』
『助かります。ありがとうございます』
運転中の鷹介と助手席に乗った家康の会話が
聞こえて来た桜奈。
縁日でとって貰った黄色いクマのぬいぐるみを
無意識にぎゅっと抱きしめていた。
家康と同じ髪色と同じ瞳色のクマのぬいぐるみ。
一目みて、どうしても欲しくなった。
偶然だとは、分かっていても
桜奈には、意味があるように思えた。
家康の代わりにそばにいてあげようか?
そう言っているように感じたのだ。