第22章 〜ただ一人の人〜
自分が無意識に泣いていることに
驚き、誰にも気づかれないよう
慌てて涙を拭う家康。
すぐ斜め後ろに、隣り合わせた見知らぬ男が
ぼそっと呟いた。
『やはり、桜奈の舞は美しいな。
佐輔!見に来た甲斐があったな。
今年は、栞姉さんが帰省してるって
言ってたから、後で挨拶に行くぞ。』
『そうですね。兄さん。』
兄弟らしきその二人は
どちらも眼鏡をかけていたが
兄と思わしき人の容姿は、全体的に
色素が薄く、雪のように白い肌と
切れ長の涼やかな瞳。
眼鏡に隠れていたが、その瞳が一瞬
オッドアイのようにみえ
パッと見では、日本人かどうかも
分からない感じだった。
しかし、浴衣を綺麗に着こなし
装いは純和風で絵になる立ち姿。
長い髪を後ろでゆるく結び
両袖で手を隠し、腕組みをしている姿は
男の家康から見ても
カッコいいというよりは、美しいと言う
表現が合う気がした。
弟らしき人物も長身でモデルのような
体型だったか、眼鏡を中指でクイッと
あげる姿は、理系男子を思わせ
どことなく、おじさんに似ている気がした。
チラっとだけ振り返って
二人を確認する家康は、秀吉の話を
思い出した。
(佐輔?どっかで聞いたな・・・栞姉さん?
あっ、おじさんの方の親戚の人か?
弟らしき人とおじさんの雰囲気似てるな・・・
ってことは、こっちの人が
桜奈に激甘な従兄弟ってこと?)
桜奈に対して、桜奈が
困った顔になるほど、激甘な過保護っぷりを
見せると言う噂の従兄弟。
直感的にめんどくさくなると思い
極力、関わらない方がいい気がして
素知らぬ振りでその場を後にした。