第22章 〜ただ一人の人〜
静かに雅楽が鳴り始めた。
シャン、シャン、シャシャラン
ふわっ、ふわっ、スッー、しゅった、タンッ!
くるっ、すたすた、ふわっ、シャンララン
ぴんと張り詰めたら空気の中で
静かに、けれど力強く舞う桜奈の
姿に、観客は勿論、家康もただ息を呑む。
祈りを込めて舞う桜奈の心中にも
(どうか、どうか、大切な人と過ごす
ありふれた日々を、幸せに過ごして
行けますように・・・
当たり前ではない日々だと
いつかは来る、別れのその日を
忘れずに過ごすこと
それが幸せそのものだと
私も初めて知ったから・・・
大切な人の幸せを願うことにも
幸せが隠れている。
大切な人の幸せを決めつけないことにも
幸せが隠れている。
私の幸せは、私の中にある。
貴方に会えて、私は幸せでした。
どうか幸せに、誰より幸せになって下さい。
神様・・・家康さんと出会わせくれて
ありがとうございます・・・)
言葉にはならない、そんな想いが溢れていた。
シャラ、シャラ、シャラ、シャラン・・・
静かに舞い終えた桜奈。
一瞬、静まり返った会場からは
どよめきと共に、大きな拍手に包まれた。
(・・・)呆然自失の家康。
込み上げてくる熱いものを、自分の中に
押し留めておくことが出来ず、泣いていた。
また、桜奈の舞う姿を目にした家康は
栞があんなに号泣したのが何故だか
分かるような気持ちで
見つめていたのだ。
少しして、桜奈が舞う姿に
誰かの影が重なり始めた。
巫女姿の桜奈にぴったりと
重なるように、艶やかな色打ち掛け姿で
舞う、もう一人の桜奈。