第22章 〜ただ一人の人〜
暫く、沈黙が続いたあと
蒸しタオルを目に当てたまま
桜奈は尋ねた。
『あの・・あの、どうして私に
告白なんてしたんですか?・・・』
(嬉しかったけど、知らないままなら
こんなに複雑な気持ちには、ならなかったのに)
背を向けたまま
『俺も本当は自分の気持ちを伝えるつもりも
なかったし、そんな資格もないと思ってた。
そんなこと言っても困らせるって分かってたし
この気持ちを通すこともできないしね・・・
でも、もうこの気持ちを伝えられる機会は
この先、二度ないんだなって・・・
そう思ったら桜奈を俺がどう
想っているか、どうしても
知って欲しくなった・・・
ほんとにただの俺のわがままで
泣かせてごめんな。』
(もっと、早く、桜奈に出会いたかった
もっと早く・・・)と心の中で呟いた言葉は
口にはしなかった。
それは考えても仕方ないことだと
家康も分かっていたからだ。
『軽蔑した?まぁ、されても仕方ないけど・・』
首を横に振り
『それなら、私も一緒です。
結婚の約束してる人がいるのに、家康さんを
好きになって、告白しちゃいましたから・・・』
『そうか・・ふふっ、小夏には浮気だって
言われたよ』
と、小夏にお見通しされていたことを
思い出し笑いする家康。
『えっ!』と、ガバッと、起き上がる桜奈。
『小夏さん、私のこと知ってるんですか?』
(どうしよう・・小夏さんに嫌な思いさせた)
そう思い、申し訳なさそうに項垂れる桜奈。