第22章 〜ただ一人の人〜
蘇る、家康と過ごした日々と数々の出来事。
(そういえば、看病してもらったとき
初めて、ちゃんと顔を見た気がしたっけ・・・)
毎日顔を合わせていたはずなのに
見れているようで、見えていなかった家康の顔。
ふわふわの猫っ毛に、そっと触れた時を
思い出し、まるでそこに家康が眠っていた
あの日のように手を伸ばした。
(髪がふわふわで、睫毛が長くて
ほんと、かっこよかったなぁ・・)
家康の残像に手を伸ばしてみても
触れることすら叶わない。
桜奈は、また、苦しげに眉をひそめ
涙目になりながら、伸ばした手を握り締めた。
(こんなに、苦しくなるなら恋なんて
しなきゃよかった・・・)
そう思いつつ、桜奈は自分が
どれほど家康を好きになっていたかを
思い知らされる。
失いたくない
自分を見て欲しい
自分の側にいて欲しい
次から次へと家康に叶えて欲しい
欲求は、際限なく溢れ出してくる。
(私だけがこんなに苦しくて
私だけがこんなに辛くて、悲しくて・・・
私だけ・・私だけ?)
ふと出た疑問だった。
今の今まで、世界で一番不幸な気分でいた
はずだった。
やっと、誰かを慮る余裕を取り戻す
きっかけを掴んだ桜奈。
(さっき、家康さんに言ったことは嘘じゃない。
一緒に、いられるのが自分じゃなくても
幸せになって欲しい。本当にそう思った・・・
小夏さんだけを幸せにするんじゃなくて
家康さんも幸せでいてって・・
そう思ってたのに・・・)