第21章 また、恋してくれますか。
手に入らないと思うからこそ
求めてやまなかった、渇望と言う名の
心の渇き。
桜奈から離れなければと
思うほど、桜奈を想う気持ちは
強くなり、自分の気持ちを押し殺せば
痛みは更に増して行った。
苦しかった。
人を好きになることが
これほど苦しくなることとは
思いもしなかった。
だが、桜奈の自分への想いを知り
一時でも渇きが癒え、満たされた気がした。
諦めることを素直に受け入れて
行けると思えた。
(今更だ、仕方ないって自分にいい聞かせて
来たけど、もう十分だ。
桜奈に好きになってもらえた。
俺は、十分幸せをもらった。
桜奈の幸せを考えたら
俺はもう関わっては、ダメなんだ・・・)
失いたくない、手離したくないと
桜奈への執着にも似た想いを
頑なに握り締めていた家康。
桜奈の幸せだけを願うなら
握りしめたその手を開くしかない。
爪が食い込むほど、強く握った
桜奈への想い。
その手の指一本一本を開くたびに
痛みと切なさに襲われ
踞り、身体を縮こませた。
小刻みに震えながら、硬く閉じた目蓋の
端からは、一筋の光るものが見えた。
(これで、俺もやっと前に進める
進める・・はず・・・)
桜奈が、悩み苦しみたどり着いた
一つの答えと、同じ答えに
家康もまた、辿り着いたのだった。
愛しくて、愛しくて堪らない人。
だからこそ、誰より幸せであって欲しい。
隣にいるのが自分でなくても。
会う事が二度と叶わなくても。
でも、もし再び、姿を見れる日が来るなら
どうか幸せそうに、微笑んでいて欲しい。
そうでなければ、潰れてしまいそうなほどの
この胸の痛みに、報いてはやれないのだから。