第20章 〜それぞれの道〜
自分の中で、あり得ないと否定したものは
視界にすら入りにくくなる。
例え見えても、違和感を覚えても
人は、自分の見たいように見て
思いたいように意味づけし
そして、思い込みの記憶となっていく。
それは、家康も桜奈も一緒だった。
一方的に想っているだけの自分。
それだけが、自分の中の確たる事実。
ただ、それしか持っていないし
それしか、見えてもいなかった。
加えて、一緒に過ごせる期限が切られたからこそ
無意識のうちに、相手を求める気持ちは
加速し、募る想い。
気づけば、有り得ない行動に出ようとした
自分達がいた。
けれど、想いがどれだけ溢れようと
所詮は届くことのない、一方通行。
自分の制御できない気持ちを押し付け
相手を困らせてしまうくらいなら
やっぱり、この想いは決して相手に
気づかれてはならないもの。
そう考えながら、自分を見失いかけた
ことを反省し、あと、残りわずかな時間を
ギクシャクしたまま過ごしてもいいのか?と
家康も桜奈も自分を戒めた。
少し、落ちつきをとりもどし
桜奈は、『行ってらっしゃい』と
家康に見送られ
家康は、『引越しの荷造り、手伝えなくて
すみません。』と桜奈に気遣われ
何事も無かったように、それぞれの
今日なすべきことへと向かう。
何事もなかったように、装うことで
ギクシャクする空気を生まないようにと
必死だった。