第20章 〜それぞれの道〜
『相談って、帰れるかどうかって話だよね?』
『うん、せっかくこっちに戻ってこれたのに
向こうに帰りたいとか、親不孝だって
分かってるんだけど、やっぱり凛桜の事を
思うと、どうしても帰りたいの。
ごめんね、本当にわがままな娘で』と
申し訳なさそうに、唇を噛み俯く栞。
『何言ってるんだ、我が子を心配するのは
当然の気持ちだし、栞は信長さんに嫁いだ
んだ。現代だって、すぐに会えない距離の
国へ嫁いで行く人は沢山いるだろ?
政変が起きて、国交がなくなったり
しないとも限らない。
そうなれば行き来は難しくなるだろ?
そんなふうに、簡単に会えない国に
嫁いで行ったのと、何も変わらないと
パパは思ってるよ。
栞の場合は、距離じゃなくて
時間が離れてる場所に嫁に出した感じだけどね。』
そう言って、クスっとする鷹介。
両親の無償の愛に頭が下がる思いがする栞は
『うん、ありがとう。パパ』
そう言って微笑んだ。
それが、どれだけ有り難く幸せなことか
栞は、戦国時代にいくまで考えたことも
無かった。
でも、実弟ばかり慈しむ
実母に疎まれ殺されかけた信長様や
人質に出され、両親の愛を知らずに育った家康。
戦によって両親の愛ばかりでなく
全てを一瞬で失った桜奈さん。
戦国時代と言う、戦の世で育った人達に
とって、それは当たり前などではなく
奇跡のようなものだと栞は感じた事があった。
そして、現代に戻り、また変わりなく
自分に注がれる両親の愛に
自分がどれほど恵まれていたのかと
思うと、改めて沸き起こる深い感謝の念に
自然に頭が下がるのだった。