第19章 〜祈り〜
栞の中に一筋の希望の光が射し込み
戻れる望みがあることに、涙が溢れた。
(戻れる?また信長様の元に戻れるの?)
何としでも戻りたい気持ちとは裏腹に
戻る為の術を何も持たない栞にとって
こんなにも嬉しい可能性は無かった。
肩を震わせ、両手で顔を覆いながら
涙する栞の隣に座り、寄り添う千里。
『我が子と引き裂かれるのが、どんなに
辛いか、ママには分かるから。
ママが幸いだったのは、栞が幸せだと
知らせる手紙をくれたことよ。
あれで、本当に救われた気がしたわ。
でも、貴方は違うでしょ?
今だって、凛桜ちゃんや信長さんや
大切な人達を思えば、気が気じゃないでしょ?
パパもママも栞のことはもう
お嫁に出したと思ってるのよ。
だから、帰りなさい。
大切な人の待つ場所に。ね、栞。』
声にならないまま、コクコクと頷き
背中をさする千里に、しがみ着くように
抱きつき泣いた。
(ママ、ありがとう。ありが・・とう)
抱きしめ返す千里。
(そうよね・・・どうしたって戻りたいわよね。
私も同じ立場なら、絶対そう思うもの・・)
栞の気持ちが痛い程わかる千里。
『大丈夫よ。きっと帰れる。
そう信じましょう。』
そう言った千里だったが
しかしそれは、今度こそ
栞との今生の別れも意味する。
だが、たとえそうであったとしても
一目会うことすら、永遠に叶わなくなった
あの絶望感を栞に味合わせたくなどなかった。
今、こうして我が子を自分の腕の中に
また抱きしめられた。
(ママは貴方に、こうしてまた
会えただけで、もう十分よ・・・)
そう思いながら、涙する栞の背中を
そっとさする千里。
これまでも、これからも
千里が願い祈るのは我が子の幸せだけ。
ただ、それだけなのだから・・・