第19章 〜祈り〜
引越しのその日までに
あと何回、微笑み合い
あと何回、揶揄われ、むぅっとし
あと何回、家康の優しさに触れて
いられるだろう?
延々と続きそうな、ありふれた昨日と
同じような今日、そして明日。
今までは、そうだった。
それが当たり前だと思っていた。
でも、今は違う。
こんなに噛み締めるように
日々を過ごしている。
ひとときも無駄にしたくない気持ちに
追われるように、家康と過ごす時間が
惜しくて仕方がない。
そんな切なくも、愛おしい気持ちは
きっと、家康と出会い、悩み、苦しみ
時に傷つき、けれども、楽しくて、嬉しくて
《好き》と言う思いを止められないまま
だったからこそ、知る事ができたもの。
(運命の人・・ではなかったけど
それでも・・・私も楽しかったんだな・・・)
信長の背中を見送りながら、そんなことを
思っていた桜奈だったが
その表情に別れへの憂いはもうない。
『桜奈、帰るわよー』と言う千里の声に
ハッとし『はーい』と返事をしながら千里を
追いかけ、歩き出した桜奈の横顔は
前よりずっと大人びていた。