第19章 〜祈り〜
桜奈と過ごした時間は
例えひとときでも、重責の鎧を脱ぎ
等身大の素の自分をさらけ出し
寛ぐ事が出来たのだろうと思えた。
『たぶん、君のうちでホッとする時間を
過ごさせてもらったのだと思うよ。
本当にありがとう』
そう言って桜奈に優しく笑いかけ
それから、千里に視線を移すと
『それでは、上杉さん。
引き止めてすみませんでした。
25日に改めてお伺いさせて頂きますね。
では、今日はここで失礼します』と
二人に頭を下げると、身を翻し
診察室の方へと向かって行った。
(ホッとする時間か・・・
家康さんが本当にそんなふうに
思ってくれてたなら嬉しいな。
一緒に過ごして楽しかったって
思ってもらえてたなら、凄く嬉しい・・・)
信長の言葉に、自分と過ごした時間は
家康にとって価値あるものだったと
そう言ってもらえたような気持ちになった。
引越しの日までは、あと10日ほど。
共に過ごす時間は、今も刻々と
《今》から《思い出》へと姿を変えて行く。
そして、最後に過ごす時が過ぎてしまえば
全てが《思い出》に変わってしまう。
でも
絶対、忘れないで欲しいとも
いつも、思い出して欲しいとも思わない。
ただ、もし思い出してもらえる日がくるなら
心が温かく嬉しくなるような思い出の中に
自分が、笑っている姿であって欲しい。
漠然と、そんな思いが込み上げてきた。