第19章 〜祈り〜
家の中へと入って行く詩織の
背中を見送る信長。
あり得ないと思いながら
海の中で見た、自分を真っ直ぐ見据えるような
詩織の瞳を思い出していた。
その時と、同じ瞳で自分を見つめ
初めて見せられた笑顔に
信長の心は騒ついた。
(相手は、高校生だ。何を馬鹿げたことを・・)
そう否定する時点で、詩織に心を奪われて
いたとはまだ認めることはできない信長。
お互い3度目に会うことはないだろうと
思っていた。しかし、どこか心の奥で
後ろ髪引かれまた会いたい気持ちが
微かに燻り始める。
だがそれは、まだ意識にも上らない
無意識の中の小さな願望。
しかし、二人の縁はお互いの願望に
呼応するかのように、再び会う理由と
きっかけの手はずをちゃんと整えていた。
車を発進させ、ハンドルを掴む自分の腕に
ふと目が止まった信長。
(そう言えば、忘れてたな・・・まぁいいか。)
そう思いながら、ふっと笑い
そのまま、走り去った。
一方詩織も『ただいまー』と言って
靴を脱いだ後、靴を揃えようとかがみこむと
肩に羽織っていたジャケットの袖がはらりと
落ちてきて視界に入ってきた。
『あっ!』と声を上げ、それから
嬉しそうに、ふっと笑う詩織。
(クリーニングに出さなきゃ・・・)
羽織ったジャケットに包まれた感覚は
さっきまでの優しい信長の余韻に
浸れる気分になる詩織。
二人が同時に感じた予感。それは・・
(また、きっと会うことになる・・・)