第19章 〜祈り〜
しかし、同時にその本気が
自分の気持ちを押し潰しかねないと
懸念もしていた。
(人の感情など、そんな簡単に割り切れる
ものではない。抑圧すればするほど
マグマ溜まりのように、負のエネルギーは
溜まっていく。それが、限界になりいつか噴火
すればその身ごと、滅しかねない。
罪悪感からの償いと責任感だけでは
お互い心がすり減るだけと言うのに・・・
やっぱり、まだまだ子供だな・・)
家康の青臭さが信長には、少し眩しくもあり
羨ましくもあった。
育ての親である、叔父夫婦に愛されて
大切に育ててられ、不満など無かった。
しかし、実の両親に対する思慕は
消える事はない。
望んでも決して叶う事がないことが
世の中にはあるのだと、信長自身が
身をもって分かっていた。
何事もそつなく、人並み以上に熟す信長に
本気で欲しいと思うものも、失いたくないと
思うものも、そもそも『執着』を感じた
ことなど、これまで無かったのだ。
執着ではあるが信念とも呼べる強い拘りをもって
生きようとしている家康が眩しかったのだ。
医者になったのは、単に跡取りだったから。
いや、それだけではないかも知れない。
実の両親を失い、自分だけが生き残って
しまったことへの罪悪感。
そんな気持ちを自分以外の誰かが
持ち続けるのを見るのが忍びなかった。
だから、家族や大切な人の死によって
罪悪感を抱えこちら側に落ちて来る
人間を医者として阻止したかった。
命を救う事は、その一環。
だが、よりによって可愛い弟が
こちら側に来てしまった。
小夏との結婚を反対したのは
それを阻みたかったからだ。
罪悪感に囚われ生きるのはやめろ!
幸せにいきていけ!そう願っていたのに
家康を止められなかった。