第19章 〜祈り〜
でも、もし婚約を解消したら
小夏は、誰とも結婚はしないだろう。
頼られることはあっても、強がりな小夏のこと
気丈に振る舞って、心配ない、大丈夫だと
一人で生きて行こうとするに決まってる。
今は、まだいい。
けれど、この先何十年後かに
年老いて不自由な身体を抱え
辛いとも、苦しいとも、寂しいとも言わず
『それなりに、楽しくやってるわよ』と
きっと笑って答えるであろう
小夏は容易に想像できた。
病室で『家康が、無事でよかった』と
笑ったあの時の笑顔をそのままで
そう言うだろう。
病室で心配させまいと見せた、小夏の笑顔に
どうしようもなく湧き上がる罪悪感。
その罪悪感に家康の心は深く抉られた。
今すぐ、消えてしまいたくなるほど
苦しくなった。
そして、誓ったのだ。
人生をかけ小夏を支えて行くと。
疎まれよと、拒まれようと、頑固だと
言われようと、小夏にあんな笑顔は
もう、二度とさせたくないと思った。
それが、憧れの従姉妹の幸せをぶち壊して
しまった自分にできるせめてもの償い。
引っ越しを決め、迷いを断ち切るかの
ように、家康は改めて思い返していた。
自分の片想いにけりをつけるには
離れるのが一番なのだと。
車窓を流れる景色をぼんやり
見つめながら
(離れてしまえば、きっと忘れられる
俺には、やらなきゃならない責務が
ある。もうすぐ、この痛みから解放される
これでいい・・・これで・・・)
窓に頭を押し当てるようにしながら
自分の胸ぐらをぐっと掴み
やるせなさを抑え込もうとする。
眉間のシワが、家康の苦悩を物語っていた。