第19章 〜祈り〜
『俺は、婚約を破棄するつもりなんて
さらさらないよ。俺にとっては、小夏の
幸せが最優先なんだよ。その為にだったら
俺は、何だってするし、何だって捨てる』
揺らぐことのない、キッとした視線を
信長に向け、静かでありながら
強い意志を伴った低い声でそう呟く家康。
(ふっ、頑固者め)
『そうか。それなら、それでいい
ほら、できたぞ』
そう言って、署名し終えた書類を
家康の方に差し出した。
『どうも・・・』と言って確認し
書類を封筒にしまう家康。
『そう言えば、兄貴が助けた桜奈の
友達には、会ったのか?桜奈が
一緒に連れていくって言ってただろ?』
(あれからどうなったか、俺もまだ聞いて
なかったしな。)
『ああ、ふっ、あの面白い娘か?
会った。助けてくれてありがとうと
言いながら、最後には仁王立ちで
逆ギレした挙句二度と会わいたいと
思わずに済むって、啖呵切って帰ったよ。
なかなかの負けん気の強さで、笑った』
また、思い出しながらクックックと
笑う信長に、ギョッとする家康。
そもそも、人をよく観察し、見透かす事は
あっても人への興味を示すことも
自分の感情を表に出すことも、ほとんどない
信長が、詩織を思い出し、笑っている事に
驚いたのだ。
視線に気づき
『なんだ?何か言いたげだな』と
信長にいわれ
『あっ、いや。兄貴が人に興味示すの
あんまり見たことないから、意外って言うか
驚いたと言うか。』
(にしても、小野寺さん、初恋の相手に
喧嘩売って帰ったんだ・・・まぁ、兄貴の
ことだから、また何か腹の立つようなこと
言って煽ったんだろうけど・・・)