第17章 〜他生〜
俯く桜奈に視線を落とす家康。
(揶揄い過ぎたかな?まだ、怒ってる?)
丁度、病院の自動ドアが開き
風がふわっっと、桜奈の長い髪を
舞上げた。
覗き込んだ桜奈の横顔に、家康は
心を奪われる。
ほんの数秒前までプンスカしていた
桜奈は、幸せそうに、はにかみ
穏やかな笑みをたたえていた。
(//あっー、もー、なんでそんな顔するの?
さっきまで怒ってたくせに、何がどうなって
そんな顔になるわけ?///)
自分といて、そんな幸せそうな顔をみせるのは
反則だと思ってしまう。
分かるのは、そんな顔をさせられるのは
きっと自分ではないと言うことだけ。
誰を想っているのだろう?
何を考えているのだろう?
一瞬だけよぎる、寂しさに似た感覚を
遮るように
自動ドアから、一歩外に出ると
ウルサイほど、蝉の声がし
一息吸い込んだ空気は
むせかえるほど、熱く感じた。
ギラギラと照つける太陽は
そんな小さな嫉妬の種など
焼き尽くしてあげましょうかと
言っているようだった。
栞が、退院し家に戻ってくるなら
部屋を明け渡し、下宿をやめるのに
これほど完璧な口実もない。
桜奈が誰を想い、何を考えていても
側にいられる時間は、もうそんなには
多くない。
そして、自分に出来ることも、桜奈を
見ていることしかできない。