第16章 〜慟哭〜
しかし、様子がおかしいことに気づいた
信長は、女の子が手を伸ばしている
方向に目をやった。
すると、別の子供らしき影が見え
明らかに溺れていると分かった。
少し離れた場所で、ビニール袋のように
漂うぺしゃんこになった浮き輪らしきもの。
信長には、どう言う状況か直ぐに飲み込め
急いで溺れている子の元へむかった。
到着前に、その子が沈み始めたのを確認し
海の中へと潜った。
力尽き沈んでいくその子は、少女なのに
大人の女性を思わせるような眼差しで
信長を射抜くように、真っ直ぐに見つめていた。
その瞳に吸い込まれそうな感覚を覚える信長。
そうこうしているうちに、女の子の口から
ゴボッと、大量の空気泡が出ると
女の子はゆっくり目を閉じて
海の中で横たわっていった。
(まずい!!)
そのまま、女の子を脇に抱えるようにし
水面に浮上した信長。
ザバッっと上がると『ゲホッゲホッ』と
水を吐き出したその子は、パニック状態で
信長の身体によじ登るように、信長の頭を
抑えて込み、更に浮上しようとする。
(チッ、油断した!意識が戻ったか)
パニック状態の人の放つ力は
例え女の子といえども、侮れない。
信長は、なんとかその子を後ろから抱え込み
抱きしめ、動きを封じると
『大丈夫だ、俺が必ず助ける。安心しろ』
そう言うと、女の子の力はふっと抜けた。
『大丈夫だ、絶対、助ける』そう声を
かけながら、そのまま岸に向かった。
泣きながら、浮き輪で後をついてくる
もう一人の女の子。
岸ついて、監視員に女の子を任せると
一気に脱力し、立って居られず
砂浜に寝転んだ。