第16章 〜慟哭〜
横になりながら『ハッーハッー』と息を整えて
いると、『もしかして、信長君?』と
鷹介が覗きこみながら、声をかけてきた。
見覚えはあったが、誰かを思い出せずに
いる信長は『はい』と言い、肩で息をしながら
起き上がった。
『あっ、ごめん、ごめん。いいよ休んでて。
僕、徳永の友人で、上杉です。覚えるかな?
阿茶子ちゃんと家康君が生まれた時
遊びに行かせてもらったんだけど』と、鷹介。
『あっ、栞お姉ちゃんの・・・』
『そう!そう!栞の父です。
さっき助けてくれた子は、うちの子の
大事な幼馴染でね。
助けてくれて本当にありがとう
ございました』と深々と頭を下げる鷹介。
『ありがとうございました』と千里も
自分の腰に抱きついたまま、まだ泣いている
桜奈の肩を抱きながら頭を下げた。
桜奈も『しぃちゃ・・ヒック・・んを
ヒック・・だずげで・・くれ・ヒック
ありがとう・・ございます』と、目を真っ赤に
腫らし、しゃくり上げながら、信長に
お礼を言った。
詩織が、病院に運ばれる前に
詩織の両親も何度も信長に頭を下げ
お礼を言っていた。詩織だけは
信長に会えずじまいで、7年の月日が
流れたのだ。
全てをはっきりと思い出した信長。
(へぇ、あの時の子だったか。面影はあるけど
人の成長は、早いもんだな・・・)そう
思いながら、あの吸い込まれそうな瞳で
自分をじっと見つめていた助けた子の方は
どんな風に成長しているのかと
頭の片隅でほんの少し興味が湧いた信長だった。