第16章 〜慟哭〜
そんな寂しさを埋めるように海に
通っていた信長。
いつの間にか泳ぎが得意になっていた。
10年前、競泳の自主練で部活仲間達と
遊びも兼ねて、いつもの様に海に来ていた
信長。
遠泳を終え、休憩しながら
海水浴客達をぼんやり眺めていた。
その中で、ふと3歳くらいの女の子と
母親らしき女性が波打ち際で遊んでいる
姿が目に止まった。
その女の子と、かつての自分の記憶が
重なり、自分もあんな風に両親と
遊んでいたのだろうかと思って眺めて
いたのだった。
満面の笑みで、キャッキャしながら
砂を掘ったり、バケツで海水を汲んだり
しながら遊ぶ女の子。
何気なく見ていただけだったが
海水を二人で汲んで戻ろうとした時
女の子がバケツを落として、バケツが
波にさらわれかけた。
慌てて母親がそれを拾おうとした
次の瞬間、想像以上に高い波が
二人に押し寄せた。
波が引いた後、母親の姿はあったが
女の子の姿は見えなくなっていた。
信長は、咄嗟に走り出し、その母親を通り過ぎ
女の子を助けに向かった。パニック状態で
子供の名前を叫ぶ母親。
たまたま、目に止まり眺めていた為
すぐに女の子を助ける事ができた。
母親に女の子を返すと
大泣きする我が子を抱きしめたまま
駆けつけた父親とともに
何度も何度も信長に頭を下げお礼を
言ったのだった。
それが、初めて海で人を助けた記憶だった。
その時に、信長は思ったのだ。
自分にとって大切な思い出の残る
この場所で悲しい思いをする人が
一人たりともいて欲しくないと。