第16章 〜慟哭〜
上機嫌で、病室に入りかけた時
桜奈は、ふと何かがおかしいことに
気づいた。
(あれ?そう言えば、先生、10年前って
言ってたよね?あれは、7年前の話なのに。
たぶん、何か勘違いしたんだね、きっと)と
深く気に留めることはせず、また
千里の後を追うように栞の元へと向かった。
一方、医局に戻った信長は、ある人にメールを
送ろうと、スマホを取り出した。
(アイツ、番犬みたいに敵意剥き出しだったな。
釘は刺したが、いつまでもつやら・・・)
それから『虫除け効果が、切れそうだぞ。
そっちは、まだかかるのか?』
と打ち、送信すると
すぐさま、返信が帰ってきた。
『まだ、かかりそうだが、手は打っとく。
心配無用だ』
(ふっ、相変わらずの余裕だな。
まぁ、奴ならしくじりもしないだろうがな)
と、不敵な笑みを浮かべながら、スマホを
眺めていた。
椅子に体を預けるようにしながら
信長は、桜奈と会った事で
初めて会った日を思い出そうとしていた。
信長にとって、海は両親と過ごした
幸せの記憶の場所。
自分の記憶の中では、1番古い微かな記憶。
その時の両親の顔すら、ぼんやりとしか
思い出せなかったが、満たされた感覚だけは
残っていた。
その後に起こった、事故の事は
全く覚えていない。
ただ、その満たされた感覚を求めて
いつも海に行きたくなった。
妹や弟と分け隔てなく接し
大事にしてくれた育ての親の叔父夫婦に
感謝こそすれ決して不満があるわけで
はなかった。
それでも、良くして貰えば貰うほど
実の両親ではないと言う事実が
返って寂しさを生んだ。