第16章 〜慟哭〜
もう二度、愛する夫にも娘にも会えないかも
知れないと思うと、今更ながら家康の
深い悲しみが、痛いほど分かる気がした。
桜奈を失った後の家康を、間近でずっと
見守ってきた。桜奈との約束を果たす
ことだけを支えに生きているように見える家康は
側からみると、時折、痛々しいほどだった。
(家康はこんなに、しんどい思いの中でずっと
過ごしてたんだね・・・辛かったね・・・
今も、辛いままだよね・・・)
家康の心中に想いを馳せると涙が勝手に零れた。
感傷に浸ってる暇もなく、午前中に検温やら
点滴交換やらバダバタと周りが忙しなく
動いているうちに、回診で小田先生が
栞を診察にやってきた。
救急車で運ばれて、目を覚ましたのは
昨日の夜。先生にその時診てもらったが
当直医だったため、小田先生の顔みるのは
初めてだった。
『上杉さん、体調はいかがですか』
と、声をかけられ、少しウトウトしていた
栞が目を開けると、そこにはあり得ない人が
立っていた。
目を見開き、驚愕し表情で『信長様!』と
口を両手で覆い、声を上げる栞。
小田先生の姿は、愛する夫にとてもよく
似ていたのだ。
『そんな、ご丁寧に様付けしていただかなくて
結構ですよ。』と冗談を返しながら
ふっと笑う信長。
現代に戻ってきたことを忘れかけそうになった
栞は、自分の状況を改めて認識し
『すみません、先生が、夫によく似ていたもので
夫かと思って、びっくりしました。』