第16章 〜慟哭〜
『母上は、私の気持ちを想い
父上を試すようなことをなさったのだと
思います。私が聞き分けのないことを
申し上げてしまったばかりに、父上も母上も
苦しめる事になってしまい、本当に
申し訳ございませんでした。』
凛桜は、そう言うとポロポロと涙を流し
深々と頭を下げた。
信長は、凛桜の頭をポンポンと撫でると
『気にするでない。貴様のせいではない。
栞の気持ちを見誤り、貴様の成長をも見誤った
わしの落ちどじゃ。』
そういって、優しい眼差しを凛桜に向けた。
かつての桜奈を彷彿とさせる
凛桜の成長ぶりに、信長は驚き
嬉しくもあった。
桜奈のような女性に育って欲しいと
願いを込めて名付けた名の通り、美しく
凛とした凛桜の姿は、若干、十五歳でありながら
内から滲み出る豪気は、さながら戦国武将の
風格すら漂わせる。
自分によく似た娘を、本当は何処にも
誰にもやりたくない本心は
隠したまま、手元を離れていく
そう遠くないその日まで
父として娘を慈しみ、更なる成長を
見守っていってやりたいと思う信長だった。
(栞、早う戻って参れ。わしは凛桜とともに
貴様の帰りを待つこととする。帰ってきたら
覚悟しておけ!たっぷりと仕置きしてやる
からな)そう思いながら、天守から月夜を
眺め、杯を仰ぐ。
ポッカリと空いてしまった自分の傍らを
夜風がサッーっと吹き抜ける。
本来ならいるはずの存在の大きさを身に染みつつ
『お仕置きなら、私がしたいくらいですよ!』と
言い、肩にもたれかかりながら
ふふっと笑う栞の無邪気な笑顔を想像した。
己の栞に対する執着も大概だと
自分をふっと鼻で笑う信長だった。