第16章 〜慟哭〜
『母上は、もし元の時代に戻られたとしても
必ず、何としてでも父上と私の元に戻って
くると仰せでした。その間、父上と信じて待って
いて欲しいとも仰っておられました。
私は、母上を信じてお待ち致します。』
そう、父の目を真っ直ぐ見据え
はっきりと断言する凛桜。
まだまだ、幼く『ちちうえたま〜』
と抱っこをせがんでいた頃のような感覚で
娘を見ていた信長。だが、違った。
いつの間にか、芯の強い、逞しい
娘に成長していることを改めて感じた。
『そうか、貴様がそう言うのであれば
わしも、栞を信じて待つ事にする』そう言って
ふっと笑う信長。
それから、凛桜に破談とした経緯を
話して聞かせた。
思った以上に成長していた我が子。
今の凛桜ならば、ことの次第を
受け入れられると判断してのこと。
凛桜もまた『そう言うことであれば
私も父上を信じて、お待ち致します。
私は、秀忠様より歳上にございますゆえ
少々、焦っておりました。
政略上、私に別の縁談か、秀忠様に他の
姫君との縁談が持ち上がっているのかと。
そうであれば、私がどう足掻いても
秀忠様と添い遂げることは叶わないだろうと。
しかしながら、私の我儘が秀忠様のひいては
父上様の足手まといとなるようなことが
あるなら潔く身を引く覚悟でもおりました。
故に、破談の経緯を詳しくお教え頂き
たかったのでございます。』