第16章 〜慟哭〜
城に戻った信長は、湯あみをしながら
栞がワームホールに呑み込まれ瞬間を
思い出していた。
あとほんの少し届かなかった
自分の手を見つめ、ぐぐっと握り締め
やりきれない悔しさが込み上げてくる。
(貴様は、そんなに桜奈との約束が
大事だったのか・・・わしを試すほど
わしを信じられなんだか・・・)
信長にとって1番の恋敵が桜奈だった。
しかし、信長にとっても桜奈は盟友の
忘形見でもあり、娘同様のかけがえのない存在。
(桜奈、貴様が存命であれば
こんなことには、ならなかったのか・・・
貴様は、罪なやつだ。死して尚
皆の心を掴んで放さぬままだ。
わしも貴様に会いとうなる・・・)
お湯を手ですくい、バシャッっと自分の顔に
かける信長。そのまま顔を洗うように
両手で顔を覆った。
湯あみから戻ると、凛桜を部屋に呼び
栞の事情を話した。
凛桜は、信長から話を聞くまでもなく
全ての事情を栞から聞いて知っていた。
誰よりも愛しい人を傷つけると言うことは
それ以上に自分が傷つくことになる。
愛する人を試すということはそう言うこと。
でも、そうまでしても、相手の気持ちも
自分の気持ちも確かめずにはいられない事が
今の母のように、凛桜の人生の中でもあるかも
知れない。
その時は、母が今言ったことを忘れないでいて
欲しい。栞がそう言っていたと、凛桜は話した。