第16章 〜慟哭〜
『光秀、お夏を家康の側室に召し上げさせた
ようだが、貴様はそれで良かったのか?
側室にせずとも、手はいくらでも
あったであろう?』
『お心遣い、有難き幸せ。
でも、どうぞお気になさらず。
私は、全く気にしておりません。
家康も気にしていましたが、鼻で笑って
おきました。お夏は、そんなことで
動じる女子ではないし
家康も、未だ桜奈しか
見えて居りませぬから』とフッ笑う光秀。
『貴様には、苦労かけるな。
汚名を着せ、表舞台から消えてもらうことに
なってしまった。』
『勿体ないお言葉にございます。
それに、今の方が性に合っております。』
『そうか、嫌だといっても、まだ存分に
働いてもらうつもりでおるがな』
とニヤッとする信長。
『心得ております。』と光秀もニヤッとした。
かつて桜奈が、信長の愛妾と
勘違いされ、殺されかけたり、攫われたりした
苦い経験がある。信長の娘と分かれば
今は特に危険だと判断し、北条との話が
つくまでの間、凛桜を守る為の措置だった。
しかし、その思いは栞には伝わらなかった。