第16章 〜慟哭〜
家康が入ってくる時のドアをノックする音で
目は覚めていた。
けれど家康に、ゆっくり休むように
釘ををさされていた事もあり、そのまま思わず
寝たふりを続けてしまった桜奈。
首筋に触れられ、ドキっとし
そのあとに聞いた『愛されてて羨ましい』
と言う言葉。
どう解釈していいのか、困惑したが
ドキドキする心臓の鼓動だけは
暗い部屋に響き渡るように
鳴り響いている気がした。
だが、そこは天然無自覚の斜め上解釈が
得意な桜奈は、こう結論を出した。
(愛されてないって、大事にされてないって
感じてるってこと?確かに、忠告も聞かないで
熱出したし、迷惑ばっかりかけてるもんね・・・)
そう思うと、今さっきまでのドキドキは
スッーと引いていく。
(なんだ、そう言うことか。もうやだなぁ。
また、何を都合の良いように思おうと
してたんだか・・・家康さんが私に
愛されたいなんて思うわけないじゃんね・・・
危うく、変な勘違いするとこだったわ・・・)
本心では、期待しながら
理性ではあり得ないと否定する。
最初から、そんなことはあり得ないと
言う否定で見たり、聞いたりした出来事は
可能性の兆候を無視することになる。
自分の中だけで、完結し安心しようとする。
真実ではなく、自分の中の思い込みを
信じることで、人は勝手に安心したり
勝手に傷ついてしまう厄介な生き物なのだ。