第13章 〜真実〜
あの日、夢の中で感じた感覚が今こうして
触れ合っていると、鮮明に蘇ってくることが
不思議だった。
ずっと探していた、唯一の何かを
手に入れたと思えたあの時の満たされた
幸せと、同じ幸せを味わっている気がしていた。
何故、そう思ってしまうのかは分からない
ただ、こみ上げてくる想いは
このままずっとこうしていてたい・・・
この手を温もりを二度と離したくない。
理性が保てなくなりそうなほど
本心では、そう望み心の中で
繰り返される。
それでも、理性も黙ってはいない。
これはずっとは、叶わない。望んではならない。
叶えようとすれば、小夏と徳川家に対する
裏切りになる。不誠実な人間になる。
寄せては返す波のように
手放したくない幸せと
自分が自らの意志で選んだ責任と言う立場。
理性と感情の狭間で家康の心は
揺さぶられる。
本当は、家康に選択の余地などないのだ。
自分で選んだ責任を放り投げてしまうような
人間を、もし万が一桜奈が
受け入れてくれたとしても、きっと自分は
自分を、許せなくなる。
不誠実な自分が、桜奈と一緒にいて
いいはずなどない。
行き着く先の答えなど最初から出ていた。
それは、これからも変わることはない。
分かっていても理性で出した答えに
感情が追いつかないだけ。
だから苦しい。ただ、それだけなのだ。
その苦しさからか、時折、握った手に
無意識にギュッと力が篭った。