第10章 〜距離〜
『しぃちゃん?』と桜奈に声を
かけられ、ハッとする詩織。
『あっ、ごめん、ごめん。驚きのあまり
フリーズした。びっくりした。
そっか、そうだよね。桜奈がしんどい
顔するのも無理ないよ。辛かったね桜奈』
と、詩織は桜奈を、労わるように見つめ
桜奈の心情を救いあげた。
『うん、ありがとう、しぃちゃん・・・
私も聞いた時、頭真っ白で気がついたら
徳永さんの前で号泣してた。自分が泣いてる
って分からないのに、涙が出る経験なんて
初めてだったよ。自分が思ってる以上に
ショック受けたんだなぁって・・・』
と桜奈。
『知らない間に、それだけ好きになって
たってことでしょ』と詩織。
『うん。そうなんだと思う。
で、涙が止まらなくて焦ってる私を見て
徳永さんびっくりしてたんだけど
なんか、分かんないけど可愛そうに
思ったのかな?いきなり抱きしめられて
初めて名前呼ばれた。いつも『あんた』としか
呼ばれないから、すっごく嬉しかったのに
すっごく、悲し・・く・て・』
言いながら、桜奈は
目にいっぱい涙をため、今にも
零れそうになった。
詩織は、さっとハンカチを手渡し
『もう、いいよ。辛いなら話さなくていいよ
無理しなくていい。まだ、きっと頭の中
ぐちゃぐちゃでしょ?』
手渡されたハンカチを目に当て
コクっと桜奈は頷いた。