第10章 〜距離〜
このままでは、自分が大切にしたいと
思う人を悉く、傷つけてしまう怖さから
桜奈に全てを打ち明けたのだ。
俺に無防備な姿を見せないで・・
俺から離れて行って・・・
俺との間に壁を作って・・
そうでもしてもらわないと
自分から桜奈を拒絶するのは
もう無理だと思えた。
距離を感じ寂しくも思いながら
葛藤から目を背けられる一時的な安堵感も
同時に感じていた。
一方、触れるどの距離にいながら
桜奈も不思議なことに同じ
気持ちになっていた。
恥ずかしさからいつもの自分では
無くなって、あれほどやからかして
ばかりだったこの数日。
自分でも、理解し難いほど舞い上がっていた。
すぐ隣にいる家康。ドキドキしないわけではない
でもそれ以上に、昨日、不意に抱きしめ
られた時に感じた、どこか懐かしく
ホッとするような、心地よさに包まれていて
この数日の恥ずかしかったことが
嘘のように思えた。
気持ちを打ち明ける事のないまま
諦めなければならない桜奈の恋。
心の中に仕舞い込もうと決めた。
『運命の出会い』と思った自分が
今となっては、舞い上がり過ぎていたんだと
そちらの方が、恥ずかしいとさえ思えた。
(『初恋は、実らないって言うし・・・』)
詩織の言葉が、ふと思い出された。
(しぃちゃんの言った通りだったな・・・)
今は消えそうにもない、家康を想う気持ち。
それでも、心の奥に仕舞っておけば
いつか思い出に変わるものなのだろうか。
いや、変わってもらわないと困る。
だって、この人は恋してはいけない人
だったのだから・・・。