第10章 〜距離〜
『ごめんなさい、ごめんなさい。
もう、いいです。話さなくていいですから!』
と桜奈は、ぎゅーっと家康を
また抱きしめた。
『うん。大丈夫。途中まで話たし
最後まで、そのままで聞いてくれる?
小夏は、命にこそ別状はなかったけど
俺を庇ったせいで、左脚の膝から下を
失ってしまった・・・
俺を、俺なんかを庇ったせいで!!』
苦悶に表情を歪め、やりきれないほど
苦しそうな家康。
身体が小刻みに震えているのを
感じた桜奈は、黙ったまま
抱きしめ続けた。
『でも、俺が憧れてた人は強くてさ
術後の辛いリハビリも泣き言一つ
こぼすわけでも、俺を責め立てるわけでも
なく、家康が無事で、よかったって
笑いながら言うんだよ。
小夏には、大切な人がいたんだ
でも、怪我のせいで別れることになった。
小夏も誰かに頼って、背負われるくらいなら
一生、一人でいいとか言い出すし
徳川の伯父も伯母も優しくて、俺を
責めてくれないんだよ。ずっと守り続いてきた
家が途絶えるかも知れないのに・・・
だから、決めたんだ俺が小夏と結婚して
徳川の家を継ぐって、約束したんだ。
責任とかじゃなく、ずっと憧れてた人と
結婚できるんだよ俺。だから大丈夫』
そう言って、桜奈の手を
そっと解き、優しく微笑む家康だったが
桜奈には、苦しそうにしか見えなかった。
時々、見せる家康の辛そうな、切ない
表情の訳を桜奈はやっと分かった
気がした。