第6章 〜片想い〜
『ごめん、ごめん。
で、運命じゃないって徳永さんが
思ってるから、桜奈も徳永さん
好きになったこと、やめる?
と言うか、やめられるの?』と、真面目な
顔で桜奈に聞く詩織。
『分かんない。どうしたらいいのか
どうしたいのか、自分でも全然分かんないよ』
俯きながら、苦しそうな表情の桜奈。
『そんな、この世の終わりみたいな顔
しないでよ桜奈。
桜奈の片想いは、始まった
ばっかりでしょ?
片想い歴7年の私から言わせてもらえば
まだまだ、ヒヨッコね。』
そう言うと、ふふんと甘いわねと
言わんばかりの表情の詩織。
だが、すぐに真剣な表情に変わり
『でも、同じ片想いでも桜奈と私とでは
大違いだよ。』
『えっ?何が違うの?』
『そりゃ、大違いよ。
だって桜奈の場合は
好きな人が同じ屋根の下にいる。
手を伸ばせば触れる距離にいるんだよ。
それは、私からしたら
めちゃめちゃ羨ましい事よ!
想いを伝えられる相手が目の前にいる
想いが届くかどうかは分かんないよ
分かんないけど、それでも好きな人の
側にいられるって、好きな人の姿を
近くで見てられるって、相手の気持ちが
わからない分、苦しいけど
でも、やっぱり嬉しくない?』と桜奈を
覗き込むようにしながら詩織は
ニコッとした。
『しぃちゃん・・』
(しぃちゃん、大人だなぁ。)
詩織の言う通りだと桜奈は思った。
初めてすれ違ったあの日から
もう一度だけでいい、会いたいと思った人が
すぐ側にいる。
その偶然は、凄い事で奇跡のような
ものだと、詩織の言葉で気づかされた。
『しぃちゃんに言われると、ほんとそうかも
って思えてくるね』と表情が少しだけ
明るくなる桜奈。