第48章 カッコわりぃとこ見せてんじゃねぇぞ
「別れる気などは毛頭ないのだよ。」
そう言ったのはもちろん本心だ。
ただ花子の顔を見たら、今言葉を交わしてしまったら・・・本当になってしまうかもしれないと一抹の不安が過ぎる。とんだ情けないオトコになったものだな、と自分にガッカリした。
そういう理由で花子を送るのを高尾に頼んだわけだが、実は他にもやるべきことがあった。
花子が赤司と灰崎に一人で立ち向かったのだから、オトコとして出来ることはしたかったのだ。
灰崎に関して言えば、花子の言葉を借りるなら“殴る価値もない”クソ野郎に過ぎない。そんなヤツに今更復讐なんてのは、無意味である。そう、頭の中ではきちんと理解はしている。
理解はしているが、過去に花子にしたことも、今日花子にしたことも一生消えやしないし、怒りが収まった訳でももちろんない。
もし次何か(あってはならないが)してくるようであれば、オレはきっと間違いなく灰崎を殺してしまうだろう。これは言葉のあやなんかではなく、本気でそう思っているのだから、やっぱりオレは相当花子に惚れている。
そしてこの殺意をあの日の赤司も抱いていたのは間違いのない事実で。あの頃、お互いにこの気持ちを素直に打ち明けていたら、もしかしたら今の赤司との関係も違っていたんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、オレは赤司の家へと向かっていた。まだ昔の赤司のままだったら・・・そんな淡い期待も抱いていた。
そして最後の角を曲がろうとしたときだった。一瞬にしてその場が凍りつくほどに冷たくて重たい空気に変わったのだ。あぁ来るのが遅かった、そう思った。
「来ると思ったよ、真太郎。随分と遅かったね。」
「それはすまない。」
言いたいことは沢山あると言うのに、このオトコを前にすると言いたいことも言えない(いや、言わせてもらえないという方が正しいか)。
「さっきは“オレ”が何か言ったようだが、“僕”の意見は何も変わらない。」
「・・・。」
「予定通り明日は花子を賭けて戦おう。」
「でも赤司、」
「頭が高いぞ。」
「・・・っ」
「言ったはずだ。僕に逆らう奴は親でも殺す。」
絶対は僕だと、そう付け足した赤司の目の奥はとても冷たかった。