第46章 やらなくちゃいけないことがあるから
『ごめんなさいっ!』
勢いよく頭を下げたせいで、身体の一部が机に触れてしまい、ソーサーに乗せられた花柄のコップがカタンと音を立てた。ちなみに中身は暖かいココアだった。
“一体なんの真似だ?”
初めこそ怪訝そうな声が上から聞こえてきたが、そのうち何に対しての謝罪なのか見当がついたのか、
赤司は深く息を吐いた。
「とりあえず、顔をあげてくれないか?」
言われた通り、恐る恐る顔をあげる。
赤司と視線が交わるが、涼しくて熱のないその表情を見ると少しだけ目を逸らしたくなった。
見てとるに怒ってはいなそうだが、穏やかというわけでもなさそうだ。でもそれが逆に恐ろしい。ここに来るまで赤司と会うことになんの恐怖心もなかったが、今は少しだけ怖いと思うのは、そのせいでもあるだろう。
「先ずは花子の話を聞こうか。」
『あ、あのねっ、本当に偉そうな話なんだけどね、』
いざ本人を前に好意を断るという行いは、想像以上にどぎまぎしてしまう。こういうことはハッキリと言わないといけない。分かっているはずなのに、私の口から出てくる言葉はそれに相応していない。
『わ、わたしね、』
「・・・。」
ゴクリと喉を鳴らす。
言ってしまえ、ハッキリと。
『赤司のこと、好きじゃない。』
「・・・。」
『だから、赤司の気持ちには・・・やっぱり応えられない。』
・・・よし、言った。
結局目は逸らしてしまったが、割とハッキリと気持ちは伝えられただろう。しかし、当の赤司はピクリとも動かない。口も開かない。ただ、変わらず冷たい目でこちらを見ているだけ。
そうして先に無音な状態に耐えられなくなってしまったのは私の方で、その場の空気を取り繕うように声をかける。
『で、でもね。本当に赤司のことは幼なじみとして大切に思ってるよ。だか・・ら、これ・・からも、』
“仲良くして欲しいな”
と言おうと思っていた。しかしそれは許されなかった。
なぜなら話している途中で不意に立ち上がり近付いてきた赤司に腕を捕まれ、ソファーへと組み敷かれてしまったからだ。
そして赤司は冷たく笑う。
そしてここで目の前にいる赤司は、もう一人の赤司なんだと、漸く気付いたのだ。