第45章 別れよう
『“いいじゃん。お似合いだよ”』
「“幼なじみをやめたいんだ”」
『“赤司は素敵な人に出会えたんだね”』
「“・・・・・っ、”」
あの日の会話が走馬灯のように再生される。
思わず耳を塞ぎたくなるほどの能天気な物言いに、過去の自分ではあるが一発殴りたくなった。
予想通り、そこにいる赤司と自分の記憶の中の赤司とでは大きな乖離があり、彼女ができて喜んでいるはずの彼はソコにはいなかった。そして漸く気が付いたのだ。
『・・・ぜんぶ私のせいだったんだ。』
そう呟き気が付けば夢から目覚めていた私は、自室のベッドの上だった。首筋に生暖かい何かがつたい、自分が泣いていることに気が付いた。
『・・・真ちゃん、』
真暗な部屋でその名を呼んでみたが、返事はない。
掌でシーツに円を書けば、既にそこはひんやりとしていて、随分前に真ちゃんが帰ったことが伺えた。
下腹部に残るほんの少しの痛みと共に、身体を起こす。脱ぎ捨てた高尾のジャージが見当たらないことから察するに、真ちゃんは試合会場へと戻ったのだろう。
ボーっとする頭を左右に揺すり、今しがた見た夢について思考を巡らせる。たかが夢じゃないか、そう思いたいのにそうは思えないのは、熱の篭った二人の視線が、灰崎の優しい顔が、全然嬉しそうじゃない赤司の顔が、自分の記憶よりも鮮明だったからだ。
そして考えれば考えるほどに、やっぱり全部自分のせいだったという答えに辿りつく。そうなれば次の行動は自ずと決まる。
『・・・行かなくちゃっ、』
乱れた制服を急いで整え、部屋を出る為に立ち上がる。すると1枚のメモが視界に入った。男の子の割にキレイな字で書かれたそれと携帯だけを持ち、外へと飛び出した。
『もっとっ・・・もっと早くっ、』
そう呟きながら目的地に向かって走り続けた。
明日に迫ったクリスマスに街はイルミネーションで綺麗に飾られていて、その下で仲良さげに寄り添うカップルを見て、真ちゃんを思い出し足を止めた。
上がった息を整えるようにゆっくりと歩きながら電話をかけると、2コール目が鳴り終わる前に、焦ったような声が聞こえてきた。
「どうした?何かあったか?」
灰崎の件で心配してくれたのだろうとは分かるが、その慌てたような応答に、思わず吹いてしまった。