第45章 別れよう
「意気込んでるとこ悪ぃんだけどよ、」
「青峰っ!」
「灰崎なら先にある公園で伸びてるぞ。」
「どういうことなのだよ?」
高尾と共に灰崎を探し始めようとして数秒。何者かに肩を叩かれ、振り返れば相変わらず気だるそうにしている青峰が立っていた。
「一発殴った。」
「は?」
「試合終わったあと山田のことは黄瀬から聞いた。んで灰崎見かけて、これ以上余計なことすんなって止めたら、
“やめて欲しけりゃ、力ずくでやってみろよ!!”
ってすげーおっかねぇ顔して殴りかかってきてさ、んじゃあ、そうさせてもらうわ。つって、・・・殴った。」
「「・・・。」」
あっけらかんと話すその様に、何も言えなくなってしまったオレたちに気にすることなく青峰は話を続ける。
「緑間、オメェはまだ試合残ってんだし、野暮なこと考えてねぇでさっさと帰れよ。」
終いには“明日楽しみにしてんぞ”と付け足し、まるで嵐のように帰って行った。
ほんの少し前までは、自分だって本気で灰崎を殴ろうと思っていた。そのはずなのに、青峰の行動を馬鹿げていると俯瞰してしまうのはどうしてだろうか。
もちろん納得など1ミリもしていない。花子にあんなことをしておいて青峰が一発殴ったくらいで、許されるなど到底有り得ない。
それでもやはり高尾と青峰の言う通り、オレにはまだ大切な試合が残っている。釈然とせず、モヤモヤとした感情は残るが、結局は灰崎の顔を見ることもなく帰路についた。花子が羽織っていた高尾のジャージも返し、ほどなくして高尾とも別れた。
そのあとすぐだった。
花子から電話がかかってきたのは。
「どうした?何かあったか?」
灰崎の件があった手前、思い詰めているんじゃないかと柄にもなく少々焦ったような声を出したオレに、花子は笑う。笑ってんじゃねぇよ、と返したのは照れ隠しもある。
ふと電話越しに風がヒューヒューと駆け抜ける。
「オマエ外にいるのか?」
『ん、ちょっとね。』
「どこにいる?オレもそこに」
『真ちゃん、あのね。』
電話の向こうの声は、いつも通りだった。
だからその後に言われたことを理解するのにかなりの時間がかかってしまった。
(『別れよう』)