第45章 別れよう
『・・・あぁ、これは夢か。』
夢を見ている私がそう呟く。
これが夢であるということにすぐ気付けたのは、帝光中の制服を着ている自分を離れたところから俯瞰していたからだ。
『まだ入学したての頃かな?』
制服に着られている感じに加え、ピカピカなカバンを持っている姿からそう思った。そしてその予想は大当たりで、次の瞬間には覚えのある会話が繰り広げられた。
『“制服変じゃないかな?”』
「“とっても似合っているよ”」
「“少しスカートが短いんじゃないか?”」
気が付けば私の隣には真ちゃんと赤司がいて。
2人ともまだ小さくて可愛いなあ、なんて思わず笑ってしまった。
そしてあることに気が付く。
先を歩く私を見る2人の目が熱み帯びているのだ。
あの頃は周りを見る余裕もなかったし、そもそも“恋”というもの自体よく分かっていなかった。
だから気付かなかったのか?
だいぶ自惚れてしまうが、既に2人は好意を抱いてくれていたのかもしれない。
そう感じ一度瞬きをすれば、たちまち場面は変わる。ここは教室で、隣の席にはこれまた少しあどけなさが残る灰崎がいた。
「“オレと付き合わない?”」
『“・・・へ?”』
「“まぁ、3番目で良ければだけど”」
『“お、お断りします!”』
揶揄われたと“ムッ”とした幼い私に、微笑みかける灰崎は私の記憶に残る灰崎とはまるで違い、優しく柔らかい表情をしていた。
あのときもこんな風に笑いかけてくれていたのだろうか?これじゃまるで本当に好かれているみたいじゃないか。
そう自分に問いかけ、段々に露呈される自分の鈍感さに嫌気がさしてくる。
そしていつか松野先輩に言われた“鈍感お姫様”というそのワードがこんなにもピッタリだったと分かると、可笑しくて乾いた笑いが溢れた。
瞬きをすればまた場面は変わるだろうか?
今度はどこへ誘われるのか、また何か見落としているに違いない。早く目覚めてと願うくせに、好奇心からかその見落とした何かが気になり、次の場面を期待してる自分も確かにここに居た。そしてゆっくり瞬く。
「“彼女ができたんだ”」
『“えっ?おめでとう”』
ここで私は何を見落としていたのか。幼い2人が私の部屋で繰り広げる会話に目を凝らした。