第45章 別れよう

「てか、なんで戻ってきたんだよ？カバンならオレが家まで持って行ったし、山田の側に居てあげた方がいいんじゃねぇの？」


「まぁ、それもそうなんだけどな･･･、」



「･･･何か他に用でもあんのか？」




なんて聞いたのは、真ちゃんが歯切れの悪い返答をしたから。そしてそれに加えてどこか怖い顔をしていて。


そんな真ちゃんが今、何を考えているのかは、明々白々だった。間違いない。灰崎に制裁を与えることばかり考えているのだ。




「･･･やめとけよ。」


「何の話だ？」


「とぼけんなよ。それともそれで隠してるつもりなのか？」


「オマエの言っている意味がさっぱり分からないのだよ。」




それでも白を切り続ける真ちゃんに、回りくどい言い方は辞めてガキでも分かるように言い直す。




「灰崎に手ぇ出すの辞めろって言ってんの。」


「すまないが、その願いは聞けないな。」



うん、と首を縦に振らない真ちゃんの気持ちももちろん分かる。オレだって、灰崎を殴りたいのは同じだ。


それでも試合を控えたオレたち選手に、どんな大義名分があったとしてもそれは決して許されない。真ちゃんだって、分かっているはずだ。




「真ちゃんの気持ちも分か」


「いいや、分からない。」


「･･･、」


「オマエにオレの気持ちなど分かりやしない！」




声をめいいっぱいに荒らげてこんなにも怒っている真ちゃんの姿を見たのは、初めてだった。そしてその顔を真赤に染めて、まくし立てながら話す真ちゃんから目を反らすことさえも出来なかった。



「自分の命よりも大切なんだ。バカみたいに聞こえるかもしれないが、本気でそう思ってるし、花子が傷つくことなく幸せに生きていけるなら、この命だって惜しくなどない。」


「･･･、」


「そう思うくらいには惚れている。そんな命より大事な人を傷つけられたんだ。しかも今日ので2度目だ。･･･許せるはずなんてないのだよ。」



拳を力いっぱいに握り、今にも殴りかかりそうな真ちゃんを止めることは不可能に近いだろう。


･･･おい山田。
どうしてくれんだよ、と言いたい言葉たちはため息となって吐き出された。