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緑間のバスケ【黒子のバスケ】

第44章 忘れさせてやる






「・・・花子、」



そう何度真ちゃんに名前を呼ばれただろうか。
そのどれもが優しくて、それでいて苦しくて、涙が溢れそうになる。


顔は・・・まだあげたくない。
気持ちの整理もできていない今、真ちゃんの顔を見てしまったら、声をあげて泣いてしまいそうだ。そして何よりあんなことをされて、どんな顔して話せばいいのか全く分からない。



「・・・花子、」


『・・・・・。』



それでも何度も名を呼ばれ、一向に顔をあげない私に先に痺れを切らした真ちゃんは、片手で優しく頬を包みながらその手をクイっと持ち上げる。


そうしていとも簡単に上を向かされてしまったわけだが、どうにか視線だけは合わせないようにと小さな抵抗を続ける。


何度も冷たい水で洗った唇は最早感覚などなかった。じんわりと口中に鉄のような味が広がり、初めて強く噛みしめている部分から出血していたことに気が付く。



どんなにキレイに洗っても、そこに感覚がなくなっても、生ぬるい何かが残っていて。目を閉じてしまったらすぐそこに灰崎がいるような気がして。


悔しいやら怒りやら恐怖やら・・・・・、
自分の気持ちもよく分からない。



身体が微かに震えているのは、寒いからか恐怖からか。それさえも分からないのだ。そのときだった。




「・・・花子、」



また優しく名を愛でられたかと思えば、視界が一気に悪くなり、唇には暖かくて柔らかいよく知っているそれが重なったのだ。


そのときすーっと心が軽くなった気がした。
実際、肩の力が抜けていったのが自分でも感じていて、いつの間にか後頭部に添えられた大きな手にこれ以上ない安心感を覚えた。



いつもだったら、人前で、ましてや至近距離に高尾がいるところでキスだなんて私も真ちゃんもするタイプではない。


それでも今は少しでも真ちゃんに長く深く触れていたいと思ってしまった。




『・・・・・っん、』



そんな気持ちを知ってか、優しくなぞるように舌がおずおずと侵入してくる。そして一度招き入れてしまえば、そこからは徐々に真ちゃんのペースにのまれていく。


時折漏れる甘い声とクチャクチャと絡まる唾液の音を高尾には聞かれたくないのに、高尾が聞いていると思うと背中がゾクゾクとした。


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