第44章 忘れさせてやる
「いや、今花子とは別だが・・・アイツに何か用か?」
滅多にかかってくることのない青峰からの電話は、あまりにも信じられないような内容で思わず自分の耳を疑った。
「“黄瀬の対戦チームに灰崎がいる”」
「は?」
「“山田と一緒じゃねぇなら急いで捕まえとけ。アイツのことだ。何す”」
青峰が言い終わる前に電話を切ったオレは、花子を探すために走り出した。慌てたオレに“何事だ?”と声をかけてきたキャプテンに返答する余裕は既になかった。
・・・もしかして一緒にいるのか?
なんて最悪の事態を想像し始めるのにそう時間はかからなかった。
何せ青峰の言おうとしていた通り、灰崎は何をするか分からないヤツなのだ。もし花子を見かけでもしたら、赤司や黄瀬への腹癒せに手を出すなんてことは想像に容易い。
そんな負のループに陥った頃だった。
「緑間っち!」
向かいから走ってきたのは慌てている黄瀬だった。オマエ次試合だろう、と言うより先に黄瀬は話始める。
「花子っちがまた祥吾クンに・・・」
その一言を聞いたとき、鈍器のようなもので頭を思い切り叩きつけられたような衝撃が走った。痛いなんてもんじゃない。酷く目眩いがして、思考回路さえも閉ざされてしまうほどだった。
「・・・灰崎は?」
激しい怒りから、そうして漸く出た言葉は震えていた。その後一連の流れと花子の居場所を教えてもらい、試合に向かう黄瀬を鼓舞した。
「負けるなど、絶対に許さないのだよ。」
黄瀬と別れて外に続く扉を開けた。
張り詰めたような冷たい風か流れ、一気に背筋が伸びる。確か、花子は制服だった。寒い思いはしていないだろうか、なんて今はどうでもいいことが頭を過ぎる。
どうでもいいことでも考えていないと、普通じゃいられないからだ。次灰崎を前にしたらオレは何をするか分かったもんじゃない。
きっと灰崎がボロボロになるまで殴るだろう。もちろん気絶なんてされちゃ困るから、既いのところで痛みを味あわせてやるのだ。
そうして初めて自分の中に、こんな意味もない加虐心が存在していたことに気付く。と、同時にそれほどまでに花子が大好きで大切だと言うことも改めて気付かされたのだ。