第42章 オレが、奪うぞ
私の話を高尾はバカにすることもなく、ちゃんと聞いてくれていた。
“今度は私が赤司を助けたい”
赤司と会ったあの日を思い出せば、今だって怖いと思うことはもちろんある。それでも赤司を嫌いになることができないのは、それまで積み上げてきた長い時間があるからだ。
それに加えて、振り返ってみればピンチのときに助けに来てくれたのはいつだって赤司だった。
そんな赤司が、別人のようになってしまった理由は分からないが、本来の優しい赤司に戻せる方法があるとするなら、それがどんなことだって試したいと思ってしまうのは至極当然だった。
だから私を賭けて試合をすることが、頭ではおかしなことだと分かっていてもそれを受け入れたのだ。
『それに、最近思うんだよね。真ちゃんは、・・・秀徳は絶対に負けないって。』
「オマエが試合する訳じゃねぇのに、どっからやってくるんだよ、その自信は。」
『だって、こっちには高尾もいるんだもん。2人がいれば無敵じゃない?』
そう言えば呆れられてしまったのだろうか。高尾はひとつため息を吐いた。そして机を挟んで向かいに座っていた高尾は身を乗り出して、私のおでこに向かって思いっきりデコピンをした。
もちろん、そんなことされるなんて微塵も思っていなかった私は抵抗する術もなく、正面からその痛みを受けた。
『いったぁ〜・・・もう何すんのよ!』
「オマエの言いたいことは分かった。が、やっぱりこんな時間に、真ちゃんに言わないでオトコの部屋に来るのは良くねぇぞ?」
『言われなくても分かってるよ。』
何度も何度も口酸っぱくこの状況を咎められたことが少々煩わしく、口を尖らせる。そんな顔を見た高尾は、“なんだ、その顔は!”と右手で私の両頬を掴み更に怒った。
『でも高尾は、私の嫌がることしないでしょ?』
「・・・っ!」
そう言えば、頬を掴んでいた手は緩み再び高尾は大きなため息を吐いて項垂れた。何か疲れさせるようなことを言ってしまっただろうか、と考えてはみたが、そうなってしまった原因はさっぱり分からなかった。
そして家まで送ると言ってくれた高尾の言葉に甘え、わざと忘れた教科書をしっかりカバンにしまって帰路についた。