第42章 オレが、奪うぞ
『本当はね、話の途中から聞いてて、』
変な勘違いを起こす前に、距離を取ったオレたちは数時間前まで囲んでいた机を挟んで向かい合って座った。
山田の言う話とは、真ちゃんと話した赤司の件だろう。あのとき起き抜けに不自然に髪を触った山田を見て、なんとなくオレたちの話を聞いていたんじゃないかという気はしていた。
そうなると、だ。
どこから聞いていたのかは知らないが、オレが山田を想っていることもバレているのではないだろうか。そんな不安が脳裏をよぎる。
真ちゃんの前では、散々強気なことを言っておきながらも、いざ本人を目の前にするとフラれるのが怖くて、その想いをどうにかこうにかごまかそうと必死になっていて。
それはもう、とんでもなく滑稽だ。
『真ちゃんのことも赤司のことも悪く思わないで欲しいなって、もちろん高尾の言ってることが正しいのは分かってる。』
一人ドギマギしているオレとは裏腹に山田は、堰を切ったように話し始めた。
『真ちゃんは言わなかったけど、今の赤司って本当の赤司じゃなくてもう一人の赤司なの。』
いつになく真剣な山田の目は、真っ直ぐ前だけを見つめていて。ぼんやりと話を聞いていたオレを見て、話を理解していないと捉えた山田は少し悩み始めた。
『なんて言えば分かりやすいかな・・・?』
「赤司って2人いんの?」
『いや、赤司は1人なんだけどね・・・二重人格みたいな感じなの。』
「はぁ?まさかそんなわけ、」
あるわけねぇだろう、と言おうとした言葉は喉の奥でつかえてなかなか出てこなかった。その理由は、目の前で話す山田が、そんな馬鹿みたいな冗談を言うような雰囲気じゃなかったからだ。
『赤司にあんなことされてすっごく怖かったし、中学のときのこともフラッシュバックした。』
「・・・、」
『大切にしてくれてる真ちゃんでさえ、少し怖いなって思っちゃったときもあった。でもね、真ちゃんと同じくらい赤司もやっぱり大切なの。』
しっかりと自分で言葉を選んで話す山田は、出会ったばっかりのビクビクと怯えていた山田とはまるで別人だった。
『だから今度は私が、赤司を助けたいんだ。』