第42章 オレが、奪うぞ
「ったく、オマエ何考えてんの?」
『なにって、』
オンナの子が一人で制服を着たまま夜道を歩いて、彼氏でもないオトコの部屋に上がりこむなんていくら山田でも危機感が無さすぎる。
今オレと2人きりになっていることに山田は何とも思っていないのだろうか。オレはと言えば、そりゃあもういやらしいことを想像してしまう始末だ。
出会った当初こそ不自然なほどに距離があったオレたちだが、今やこうやって2人きりになっても嫌がられることはない。それだけオレと山田の間には信頼関係が作り上げられたわけだ。
もちろんそれはとても喜ばしいことなのだが、その反面オトコとして全く意識されていないことが少しばかり悔しくもある。
とは言え、間違っても手を出したりなんてことはしない(できない)が、今一番の問題は、彼氏である真ちゃんがこの状況を知らないということたのだ。
不可抗力ではあるが、間違いなく明日オレは真ちゃんに嬲り殺されることだろう。
以上のことを踏まえ、自分のふしだらな感情は隠しつつも少し説教じみた話をすれば、山田はあからさまにシュンとした表情を浮かべ俯く。
『ごめんなさい・・・、』
そしてオレは滅法その顔に弱い。惚れた弱みとはこういうことなのだろうか。
「別に怒ってるわけじゃねぇよ。ただ、オマエになんかあったら心配でさ・・・、」
下を向いた顔をどうにか上げさせたくて、できるだけ優しい声で宥めながら山田に近付きそっと肩に手をおく。そして直ぐに上がったその顔は、なぜだか少し歪んでいた。
『ごめん・・・、わざとなの。』
「ん?何が?」
何に対しての“ごめん”なのか全く検討もつかないオレに、山田はハッキリとした口調で再び謝った。
『ごめんなさいっ。教科書、本当はわざと忘れたの。』
「・・・は・・?」
山田の言っていることがイマイチ理解できず、間抜けた声が部屋中に響く。そして次の瞬間には、オトコだったら誰でも勘違いしてしまいそうなことをさらっと山田は言い放ったのだ。
『高尾とどうしても2人で話したかったの。電話とかじゃなくて、ちゃんと顔を見て。』
あと一歩踏み込めばキスが出来そうなこの距離で、オレは思わず生唾を飲み込んだ。