第42章 オレが、奪うぞ
どれほどの時間が経っただろうか。
真ちゃんから前にバカみたいに山田が浮かれて赤司に会った日の出来事を全て聞いた。山田を強引に抱こうとしたことも、そのあと真ちゃんが赤司を殴ったことも、ウィンターカップで白黒つけることも全部だ。
“山田はモノじゃねぇだろ?”
“コイツの気持ちはどうなんだよ?”
“いやいや、全然理解できねぇから!”
話を全部聞いた上で、気持ち良さそうに眠る山田が起きないように気をつけながらも、声をあげた。それに対して真ちゃんは“あぁ、分かっている”と涼しい顔で一言答えるだけだった。
「そもそも体育館倉庫での一件もあるのに、赤司の行動が全く理解できねぇ。」
「・・・、」
「赤司だって山田が大事だったんじゃねぇのかよ?」
「・・・、」
文句を並べるオレに対して真ちゃんは何も言わずその口は固く閉ざされていた。そして時計の秒針だけがカチカチと音を立て、相変わらず山田は口を半分開いたまま寝ている。
その髪に、頬に、唇に何度触れたいと思ったことか。
そんなことを考えれば、先程漸く身体の中心にあった熱を逃がしたばっかりだというのに、ソレは性懲りもなく存在を主張し始める。
それでもオレは、絶対に山田が嫌がることはしないと断言できる。一生この想いが届かなかったとしてもそれは変わらない。
だから、赤司の話を聞いたとき本当に許せなかったし、それと同時に少し悲しくもあった。同じように叶わない相手を想い続けているオレたちは、どこか似ていて、もしかしたら赤司もオレと同じようにバカみたいな葛藤をしていたんじゃないかと思っていたからだ。
そうして抱いた赤司への興味だったが、一瞬にしてどうでもよくなってしまった。それどころか、山田を賭けて試合をするなんてふざけた提案に乗っかっている真ちゃんにさえ嫌気がさした。
「オマエがちゃんと守れねぇなら、オレが、」
“奪うぞ”
オレがそう言ったのと同時だった。
寝ていたはずの山田が“あ〜よく寝た”なんて白くて細い腕を天井にめがけて伸ばし始めたのだ。
『あれ?どうしたの二人とも。そんな怖い顔して、』
キョトンとした瞳を覗かせながら、彼女は無意識に自分の髪を触った。