第42章 オレが、奪うぞ
「びっくりするくらい花子に優しいヤツだったのだよ、赤司は。」
懐かしそうに話す真ちゃんの顔はどこか遠くを見ているようだった。そんな真ちゃんと赤司の話をしたことは、今まで一度たりとも無かった。
思い起こしてみれば、オレは赤司という人間をほとんど知らない。昔一度対戦したときにこっぴどく負けたくらいで、バスケ以外のことで知っていることと言えば、山田を好きだった(これも予測だが、)ということだけだ。
「やっぱり山田のことが好きだったんだな、赤司も。」
「あぁ。中学のときはそんな話をしたことは一度もなかったがな。・・・きっとお互い避けてたんだと思う。」
「どうして?」
「・・・、」
真ちゃんは一瞬言葉を詰まらせた。
聞いておいてなんだが、オレの知らない3人のセカイがそこには存在していることが少しだけ羨ましく少しだけ寂しかった。
そして赤司のことどころか、きっとオレは山田のことも多くは知らないのだろう。
「どちらかがその想いを口にしたら、花子が望む“幼なじみ”が終わってしまう気がしてオレは言えなかった。」
「幼なじみかー・・。オレには居ないから分かんねぇけど、妬けちゃうねぇ。そういうの。」
「まぁ、赤司の口から花子が好きだと直接聞いたのは高校に入ってからだし、実際に中学のころどう想ってたかは知らん。それに今は、コイツはオレのもんだ。」
「・・・惚気けか?」
「いや、事実を言ったまでなのだよ。」
そして真ちゃんは再びシャーペンを動かし始めたかと思えば、すぐさまその手を止めた。
「高尾、」
「ん?」
「オマエにも話して置かなければならないことが、1つある。」
メガネを指で持ち上げ、改まった彼の口から出てきた言葉たちにオレは言葉を失った。つまらない冗談も、それを真剣に話す真ちゃんもオレには到底理解出来なかったのだ。
「赤司と勝負をしている。・・・花子を賭けて。」
「・・・っ、」