第42章 オレが、奪うぞ
オレが英語と古文、真ちゃんが理系全般の基礎を教え込めば、始めこそ不満たらたらだった山田も、スラスラと問題を解き始めた。
そもそも本来の山田は要領が良く、勉強できない原因は、中学時代の不登校にあった。それ故に分からないことも多くあったが、基礎からしっかり理解すれば優にオレなんかよりも賢くなりそうな素質があった。
そんなことを考えながらも、カチカチと時計の秒針とシャーペンの筆音だけが響き渡る。珍しく今回のぬテスト勉強はとっても捗っていた。
「・・・なんか飲みもんでもって・・・え、」
気付けば1時間以上、誰も口を開くことなく勉強をし続けていた。そして空になったコップに、新しい飲み物を追加しようと重い腰をあげたときだった。
ふと視線を山田にずらせば、顔を突っ伏して既に眠っていたのだ。山田が眠ったのを全く気付かなかったオレに、すかさず真ちゃんは人差し指を口の前で立てた。“静かにしろ”という合図だ。
「少し前に寝たのだよ。」
「あぁ・・・わりぃ、」
半開きの口がなんともいやらしいだなんて見とれてしまったことは、真ちゃんにバレていないだろうか。すっかり飲み物のことは忘れ、ただただ挙動不審にならないように細心の注意を払ったオレは、再び座り直してシャーペンを握った。
それからしばらくしてチラリと真ちゃんの方を見れば、優しそうな顔で山田を眺めていて。
ひとつに髪の毛を纏めあげた山田の項には、まだ新しい赤い痕がいくつか残っていた。
それが何を示すものなのか、知らないほどガキじゃないオレの心臓はチクリと痛む。だが、こんなのはもう慣れっこだ。
そう思っているはずなのに、手を伸ばせば届く距離で無防備に寝ている。その既成事実が、どうしても身体の中心部分を熱くさせた。
同情するわけじゃないが、少し赤司の気持ちも分かる気がした。こんな拷問まがいなことを、どれくらい赤司が続けていたのは知らないが、山田の隣で何を想って考えていたのか、少しばかり興味が湧いた。
「なぁ、真ちゃん。」
「ん?」
「赤司ってどんなヤツだった?」
「急になんだ?」
話題になるはずのない相手の名前に、問題を解いていた真ちゃんの手もピタリと止まった。