第41章 オマエの隣にだって
「約束通り花子に謝ってもらおうか?」
控え室から出るなり視界に入ってきたのは、見上げるような背丈の大男。僅か数十分前に負かされた相手と顔を合わせるなんて、相当気が滅入る。
それに加えて山田に謝らなきゃならないと思うと反吐が出るほど最悪な気分だった。
「・・・っ、」
「約束は約束だ。」
「・・・分かってる。」
・・・あぁ、上手くいかない。
思わず舌打ちしそうになったが、どうにかこうにか下唇を強く噛み締めることで、それを防ぐことに成功した。
思い返して見れば、ずっと昔から上手くいかないことばかりだった。
自分が際立つような容姿であることに気がついたのは中学に入学してすぐのことだった。同じ学年の男子だけでなく先輩たちからも執拗にチヤホヤされ、“可愛いね”“キレイだね”と毎日のように褒め続けられた。
週に何回も告白され、その度に断るのは大変だった。けれども異性からモテているということ自体はもちろん嫌な気はしなかったし、そういう生活からもしかしたら自分は“美人”の類いに入るのではないかと感じるようになったのだ。
勉強の方はというと少し苦手だった。それでも元々の明るい性格とバツグンの運動神経でクラスでも部活でもヒエラルキーの頂上にいることが多かった。
怖いものなんて何も無かった。円満に中学生活をスタートさせ、何不自由なく3年間過ごせるものだと思っていた。
そうして中学生になって2ヶ月が過ぎたころ、学校一かっこいいと称された3年生のサッカー部の先輩に放課後呼び出された。
もちろんそれが意図していることは分かっていたし、案の定行ってみれば予想通りの告白だった。その先輩と話したことはほとんど無かったが、もちろん断る理由などなくふたつ返事で付き合うことになった。
周りの誰もが羨むような彼氏ができ、部活では1年生ながらに一軍にも選出された私は、まさに有頂天だった。
だから全くと言っていいほど気付かなかったのだ。そんな私を面白く思わない人たちがいるということに・・・。