第41章 オマエの隣にだって
「すまん、緑間。オレが話し込んで花子を引き止めてしまったんだ。」
優しそうに撫でていたその手を咄嗟に引っ込めた木吉さんは、顔色を変えることもなくオレに笑いかける。
この大男にとって頭を撫でるという行為にきっと他意などないのだろう。そう理解はしているが、その相手が自分の大切な花子となるとやはり心中穏やかではいられない。
「花子は悪くないんだ、あんまり叱らないでやってくれよ。」
なんて付け足されてしまえば、イライラしている自分がとても器の小さいオトコのような気がして更に感情はぐちゃぐちゃになった。
『2人ともごめんね?待たせて、』
「・・・」
「よし、外はだいぶ暗くなってるし急いで帰ろうぜ。」
気を利かせた高尾が声をあげ、そこでオレたちは木吉さんと別れた。先のジャンケンで負けた高尾がサドルに跨り、オレと花子は荷台に乗り込んだ。
何か考えごとでもしているのか、はたまたオレが苛立っていることを気にしているのか、真意は分からないが家に着くまで花子はジャンケン以外一言も口を開かなかった。
「・・・何か考えごとか?」
何食わぬ顔でオレの部屋に上がりこみ、ベットに腰掛けた花子に問いかける。
『んー・・・、』
ハッキリしない返事をひとつして再び口を噤む花子。そんな姿にこちらも何故かモヤモヤとする。
そもそも控え室とはいえ、年頃の男女が密室で何をしていたのか(もちろん花子を疑っている訳ではないが)正直なところ気になっていた。
「言いにくいことなのか?」
花子の隣に腰掛け、控え室で木吉さんが撫でていたように、頭の上に手を乗せる。そうすると珍しいことに、花子はそのままオレの方に身体を傾けてきた。
これは余程悩んでいるのかとオレの心配をよそに、彼女の口から出た言葉は意外なものだった。
『・・・明日勝てるかな?誠凛。』
「決着がついていないんだ。勝って貰わなきゃ困る。それにオレたちだって明日試合があるんだ。誠凛(よそ)の心配している場合じゃないのだよ。」
『そうだね。』
そう言った花子は、腑に落ちて無さそうな顔で笑っていた。